土壇場ネタ帳。
一次も有れば二次も有。
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ゲイル兄ちゃんは無駄使い魔。
ヴィランいつも苦労するんだよ
僕が海を渡るために訪れたのはソルフェミア皇国、ガーリン貿易港。
僕の祖国、エアレンディル帝国を除く世界中の物資が集まるこの場所で、僕はさっきから一人の少年を待っていた。
旅の連れ、と言うよりは腐れ縁的なものを感じる。
「400…いや500っ!」
「いーやダメだ!700からは負けんぞ!」
さっきからこの調子だ。
少年は干物屋の屋台先で、店主と激しい口論を繰り替えしていた。
もういつもの事だし、普段は僕が口を出しても何も変わらないから放っておいている。
だけど、今回はいくらなんでも長い。
長くなりそうだと思って先に他の店を回ってきたんだけれど、まだやっている。
腕に抱えた荷物を早く降ろしたいのになぁ。
「……ヴィラン、まだかかるの?」
「あったりまえだ!こんな珍しいもの、今買わずしていつ買うと!?」
少年……ヴィランがさっきから食いついているのは聖草と名高いヒィリカ草を干したものだった。
今世の中に出回っている万能薬や高級な薬は大体このヒィリカ草を使った物だ。
しかも置いてあるヒィリカ草は中が見えにくくなる程濃い青色の瓶に詰められ、栓には金の十字架が使われている。
これは信仰地であり、世の治癒士や修道士達の原点である聖都イリュナード産である事を指す。
まあ、言うなればお墨付きのブランド物だ。その分効果は十二分に頷ける。
「ほら、ココ見ろ!ちゃんとしたヤツだったらコレは不良品として扱われているはずだ!」
そう言ってヴィランが指差したのは栓の端っこ。
そこには小さなひび割れがあった。
中身が何であろうとも瓶の干物は密閉率が高くなければならない。
ちいさなひび一つであろうとも、そこから空気が入ってしまう以上通常のものに比べて密閉率は低い。
「フン、不良品であろうとも中身は正真正銘聖都産のヒィリカ草!これでも十分安い方だ!」
「干しヒィリカ草は酸化と湿気に弱いんだよ!僅かなひびでも効果は通常のに比べて何割も落ちる!」
さっきからこの調子。
喧々囂々と値切り続けるヴィランに、流石の僕も呆れ始めていた。
錬金術を習得している彼は質に煩い。
それは術を行使するのには質のいい物を使った方がいいという概念からきていると思う。
そして行商人だから値段にも煩い。
「はぁ……ヴィラン、そろそろ船に行こうよ」
「ちょっと!あとちょっとでいーから待て! ああくそっ!」
何度目かの溜息。その台詞を僕は何度聞いた事か。
しかし、これ以上長引かせてるつもりも無い。
まず港にスピネルを待たせているし、この後は海を渡った先でメレイアと合流しなければならない。
この船を逃せば明日の朝一番の船に乗るしかない。
僕、必要でもないのに早起きしたくないんだよね。
「仕方ないなぁ……ちょっとその瓶詰め貸してもらえる?」
店主に断りを入れてから僕はヒィリカの瓶詰めを手に取る。
瓶の状態はヴィランの言うとおりだ。
栓にはひびが入っていて、中の草も劣化が始まっているように見えた。
ヒィリカ草なんて高値であることで有名だから僕は買うなんて真似はしない。
が、僕は自生しているヒィリカを何度か見ているからおかしい事に気付く。
「……店主、コレ一回空けて使ったでしょ?」
「ハァ!?おい、ゲイル、それ本当か!?」
「うん。瓶の色が濃くてよく見えないけど、ひびによる劣化にしてはちょっと過ぎてるよ」
更にかなり目を凝らさないと見えないが、葉が毟られている箇所があった。
欠けた栓、過ぎた劣化、毟った跡。
この三つから推測されるのは一度空けて使った事があるという事。
「大方、買ったはいいけど売れ残っちゃって、自分で使ってみようかと思って空けてもどう使えばいいか分からなかったとかそんな所なんじゃないの?」
僕の推測が図星だったのか、店主は顔を引きつらせていた。
「ふーーーん。この店ってそんな粗悪品店頭に並べてるんだぁ。ふーーーん」
ヴィランがニヤリと笑みを浮かべる。
商人にとって致命的なのは客が来なくなる事だ。
長い付き合いだから想像は付く。どうせ露骨な口コミとかでこの店の悪口を言いふらすだろう。
それにヴィランは僕に付いて歩く行商人だから、世界中に流れてもおかしくない。
「わ、分かった!アンタの言うとおり500でいい!」
「何言ってるのさ。一回使用済みなた300だろ」
いい加減足元見すぎだろう。
店主もそう思ったのか蹴ろうとしたが、店主が食って掛かる前にヴィランは路上へと向き直る。
「すみませーん路上の皆様方ー!この店はー……」
「うわああ!さ、300!300でもいいからそれ以上言わないでくれぇっ!!」
大声で叫ぶヴィランに通行人が足を止める。
大慌てで承諾した店主に、ヴィランは「交渉成立だね」と笑みを浮かべていた。
そして船に向かう僕とヴィラン。
ヴィランの手には先程のヒィリカ草の瓶がある。
「ゲイルって結構ちゃらんぽらんとしてるように見えて変なところで使えるよなぁ」
「むっ。それじゃ僕がいつもちゃらんぽらんだって言ってるようなものじゃないか」
スピネル相手に悪戯していたりするかもしれないけれど、いつもという訳ではないと思うよ。
確かに、寝てる間に悪戯しかけたり、わざわざ口論になるような言動をしていたりしなくもないけれど。
「それにしてもゲイル、よく劣化し過ぎてるとか分かったな」
「まあね。ヒィリカ草なら実家でよく見てたから知ってるしね」
僕の実家は薬草園を経営していた。
とはいえ帝国だから取りには行けないし、僕と両親はほぼ縁が切れている。
「あー、帝国にあるのか。だったら流石のオレでも手が出ない……」
「ああ、それと。野生のヒィリカ草なら共和国にあるよ」
尤も、共和国の場合は忘却の谷と呼ばれる底なし谷の先にある。
取りに行こうと思って行ける場所ではないので、あまり大差は無いけれど。
そう言い加えると、ヴィランは思わず瓶を落としそうになっていた。
慌てて瓶を掴み直すと、いきなり叫び出した。
「っかーーー!!!何でそれを先に言わないんだよ!!」
「え?だってヴィランは干物のヒィリカ草が欲しかったんだろう?」
「バカ!生でも手に入るって知ってたらあんなに食いついてたりはしないって!」
干しヒィリカとはいえ、元はヒィリカ草を干したもの。
300も無駄にした!と頭を掻く彼は、ふと気付いたように僕を見る。
僕が抱えているもの。それは買い物をした時手にする紙袋。
「………おい、ゲイル。その紙袋、中身はなんだ?」
「ああ、コレ?そろそろ化膿止めの薬とかが切れる頃だったから」
「他は?」
「スピネルの奴、いつも船酔い酷いから酔い止めも」
紙袋から取り出したのは掌サイズの軟膏の入れ物。
それと小さな袋に包まれた酔い止めの粉薬だ。
「他だよ他ッ!その大きさの紙袋で薬二つな訳ないんだろッ!!?」
ひったくるかのように僕から紙袋をぶん取ったヴィランは、近くにあった木箱の上で中身を調べている。
薬の他に買ったものと言えば食料と調味料。
あとは……まあ、世の中の言葉で言えばガラクタ、だろうね。
「……おい」
「いやー、やっぱ好きなもの買えるって言うのは清々しいね」
中身を確認し終えたヴィランの顔は一気にやつれたように見える。
僕としては中々面白そうなものだとは思うけどなぁ。
魔物の毛髪を使ったタペストリーとか、ゼンマイ式のあひるとか。
「ゲイル、まさかお前このために……」
「そんな悪人見るような目で見ないでよ。僕はちゃーんと断ってから買い物に行ったよ?」
ヴィランが値切ってる間、ずーっと暇だったからねぇ。
薬と食料以外、出した中身を全て紙袋へ押し込んでいるヴィランの肩は震えている。
「今すぐ突っ返して何が何でも金を取り戻して来いッ!!」
「えー。もう無理でしょ。あと数分で船出ちゃうよ?」
ニッコリ笑みを浮かべて言えば、ヴィランは折れるしかなかった。
僕の祖国、エアレンディル帝国を除く世界中の物資が集まるこの場所で、僕はさっきから一人の少年を待っていた。
旅の連れ、と言うよりは腐れ縁的なものを感じる。
「400…いや500っ!」
「いーやダメだ!700からは負けんぞ!」
さっきからこの調子だ。
少年は干物屋の屋台先で、店主と激しい口論を繰り替えしていた。
もういつもの事だし、普段は僕が口を出しても何も変わらないから放っておいている。
だけど、今回はいくらなんでも長い。
長くなりそうだと思って先に他の店を回ってきたんだけれど、まだやっている。
腕に抱えた荷物を早く降ろしたいのになぁ。
「……ヴィラン、まだかかるの?」
「あったりまえだ!こんな珍しいもの、今買わずしていつ買うと!?」
少年……ヴィランがさっきから食いついているのは聖草と名高いヒィリカ草を干したものだった。
今世の中に出回っている万能薬や高級な薬は大体このヒィリカ草を使った物だ。
しかも置いてあるヒィリカ草は中が見えにくくなる程濃い青色の瓶に詰められ、栓には金の十字架が使われている。
これは信仰地であり、世の治癒士や修道士達の原点である聖都イリュナード産である事を指す。
まあ、言うなればお墨付きのブランド物だ。その分効果は十二分に頷ける。
「ほら、ココ見ろ!ちゃんとしたヤツだったらコレは不良品として扱われているはずだ!」
そう言ってヴィランが指差したのは栓の端っこ。
そこには小さなひび割れがあった。
中身が何であろうとも瓶の干物は密閉率が高くなければならない。
ちいさなひび一つであろうとも、そこから空気が入ってしまう以上通常のものに比べて密閉率は低い。
「フン、不良品であろうとも中身は正真正銘聖都産のヒィリカ草!これでも十分安い方だ!」
「干しヒィリカ草は酸化と湿気に弱いんだよ!僅かなひびでも効果は通常のに比べて何割も落ちる!」
さっきからこの調子。
喧々囂々と値切り続けるヴィランに、流石の僕も呆れ始めていた。
錬金術を習得している彼は質に煩い。
それは術を行使するのには質のいい物を使った方がいいという概念からきていると思う。
そして行商人だから値段にも煩い。
「はぁ……ヴィラン、そろそろ船に行こうよ」
「ちょっと!あとちょっとでいーから待て! ああくそっ!」
何度目かの溜息。その台詞を僕は何度聞いた事か。
しかし、これ以上長引かせてるつもりも無い。
まず港にスピネルを待たせているし、この後は海を渡った先でメレイアと合流しなければならない。
この船を逃せば明日の朝一番の船に乗るしかない。
僕、必要でもないのに早起きしたくないんだよね。
「仕方ないなぁ……ちょっとその瓶詰め貸してもらえる?」
店主に断りを入れてから僕はヒィリカの瓶詰めを手に取る。
瓶の状態はヴィランの言うとおりだ。
栓にはひびが入っていて、中の草も劣化が始まっているように見えた。
ヒィリカ草なんて高値であることで有名だから僕は買うなんて真似はしない。
が、僕は自生しているヒィリカを何度か見ているからおかしい事に気付く。
「……店主、コレ一回空けて使ったでしょ?」
「ハァ!?おい、ゲイル、それ本当か!?」
「うん。瓶の色が濃くてよく見えないけど、ひびによる劣化にしてはちょっと過ぎてるよ」
更にかなり目を凝らさないと見えないが、葉が毟られている箇所があった。
欠けた栓、過ぎた劣化、毟った跡。
この三つから推測されるのは一度空けて使った事があるという事。
「大方、買ったはいいけど売れ残っちゃって、自分で使ってみようかと思って空けてもどう使えばいいか分からなかったとかそんな所なんじゃないの?」
僕の推測が図星だったのか、店主は顔を引きつらせていた。
「ふーーーん。この店ってそんな粗悪品店頭に並べてるんだぁ。ふーーーん」
ヴィランがニヤリと笑みを浮かべる。
商人にとって致命的なのは客が来なくなる事だ。
長い付き合いだから想像は付く。どうせ露骨な口コミとかでこの店の悪口を言いふらすだろう。
それにヴィランは僕に付いて歩く行商人だから、世界中に流れてもおかしくない。
「わ、分かった!アンタの言うとおり500でいい!」
「何言ってるのさ。一回使用済みなた300だろ」
いい加減足元見すぎだろう。
店主もそう思ったのか蹴ろうとしたが、店主が食って掛かる前にヴィランは路上へと向き直る。
「すみませーん路上の皆様方ー!この店はー……」
「うわああ!さ、300!300でもいいからそれ以上言わないでくれぇっ!!」
大声で叫ぶヴィランに通行人が足を止める。
大慌てで承諾した店主に、ヴィランは「交渉成立だね」と笑みを浮かべていた。
そして船に向かう僕とヴィラン。
ヴィランの手には先程のヒィリカ草の瓶がある。
「ゲイルって結構ちゃらんぽらんとしてるように見えて変なところで使えるよなぁ」
「むっ。それじゃ僕がいつもちゃらんぽらんだって言ってるようなものじゃないか」
スピネル相手に悪戯していたりするかもしれないけれど、いつもという訳ではないと思うよ。
確かに、寝てる間に悪戯しかけたり、わざわざ口論になるような言動をしていたりしなくもないけれど。
「それにしてもゲイル、よく劣化し過ぎてるとか分かったな」
「まあね。ヒィリカ草なら実家でよく見てたから知ってるしね」
僕の実家は薬草園を経営していた。
とはいえ帝国だから取りには行けないし、僕と両親はほぼ縁が切れている。
「あー、帝国にあるのか。だったら流石のオレでも手が出ない……」
「ああ、それと。野生のヒィリカ草なら共和国にあるよ」
尤も、共和国の場合は忘却の谷と呼ばれる底なし谷の先にある。
取りに行こうと思って行ける場所ではないので、あまり大差は無いけれど。
そう言い加えると、ヴィランは思わず瓶を落としそうになっていた。
慌てて瓶を掴み直すと、いきなり叫び出した。
「っかーーー!!!何でそれを先に言わないんだよ!!」
「え?だってヴィランは干物のヒィリカ草が欲しかったんだろう?」
「バカ!生でも手に入るって知ってたらあんなに食いついてたりはしないって!」
干しヒィリカとはいえ、元はヒィリカ草を干したもの。
300も無駄にした!と頭を掻く彼は、ふと気付いたように僕を見る。
僕が抱えているもの。それは買い物をした時手にする紙袋。
「………おい、ゲイル。その紙袋、中身はなんだ?」
「ああ、コレ?そろそろ化膿止めの薬とかが切れる頃だったから」
「他は?」
「スピネルの奴、いつも船酔い酷いから酔い止めも」
紙袋から取り出したのは掌サイズの軟膏の入れ物。
それと小さな袋に包まれた酔い止めの粉薬だ。
「他だよ他ッ!その大きさの紙袋で薬二つな訳ないんだろッ!!?」
ひったくるかのように僕から紙袋をぶん取ったヴィランは、近くにあった木箱の上で中身を調べている。
薬の他に買ったものと言えば食料と調味料。
あとは……まあ、世の中の言葉で言えばガラクタ、だろうね。
「……おい」
「いやー、やっぱ好きなもの買えるって言うのは清々しいね」
中身を確認し終えたヴィランの顔は一気にやつれたように見える。
僕としては中々面白そうなものだとは思うけどなぁ。
魔物の毛髪を使ったタペストリーとか、ゼンマイ式のあひるとか。
「ゲイル、まさかお前このために……」
「そんな悪人見るような目で見ないでよ。僕はちゃーんと断ってから買い物に行ったよ?」
ヴィランが値切ってる間、ずーっと暇だったからねぇ。
薬と食料以外、出した中身を全て紙袋へ押し込んでいるヴィランの肩は震えている。
「今すぐ突っ返して何が何でも金を取り戻して来いッ!!」
「えー。もう無理でしょ。あと数分で船出ちゃうよ?」
ニッコリ笑みを浮かべて言えば、ヴィランは折れるしかなかった。
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