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李紅と迅のなんか日常っぽいの。
深く、しかし浅い位置にあった意識が浮上する。
薄っすらと瞼を開けば暗い部屋。そして護摩壇の灯が見えた。
ああそうだ。俺は、確か先視をしている最中だったか。
「迅」
不意に隣から声をかけられる。
俺の隣に座り、同じく祈祷をしていた実姉。李紅の声だ。
「今寝てただろ」
「……」
事実である為、俺には黙るしか方法が無い。
李紅がため息をついたが、毎度の事となっているせいか何も文句は語らなかった。
とりあえず、座禅を組み直し再び先視をすべく集中する。
先視とは爆ぜる火に向けて精神を集中させ、火の向こうに未来を見ると言う呪いだ。
正直、先視のようにじっとしている呪いは李紅の得意分野であって俺は性に合わない。
俺は呪いのなかでも舞。特に剣舞の方が得意だ。
まず何故俺が李紅の先視に付き合っているのか?その時点で少し疑問を抱くべきか……
「仕方ないだろ。今日は満月の日なんだから」
俺は一言も声など発していない。
呪いをしている最中の李紅は人一倍勘が鋭くなる。恐らくそのせいで心を読まれたのだろう。
「満月、か。もうそんな時期か」
俺と李紅は同じ御子と言う役割を持つ。
御子と言っても特に何かあると言うわけではなく、この北方領土にて唯一陰と陽の属性持つからそう呼ばれているだけだ。
陰である李紅は満月になると弱体化し、対する俺は力を増す。
逆に新月となれば俺が弱体化し、李紅は力を増す。
今日は満月であるから、李紅が何か呪いをする場合俺の力が必要になると言う事だ。
「……まったく、厄介なものだな」
「こればっかりは仕方ないよ。僕達が双子だったって言うのが唯一の救いだよね」
先代の御子も、先々代の御子も。俺達より過去の御子達は皆縁もゆかりも無い者同士だったと言う。
縁の無い者同志であるから、こうやって会う事も会話する事も稀だったと言う。
第一、本来陰と陽の属性を持つものは相反する属性な成果本能的に仲が悪いとも聞く。
だが、同じ御子である俺と李紅には何故か当てはまる事が無いようだ。
俺と双子であり家族でもある李紅とは縁もゆかりもあって当然。行動を共にする事も多々ある。
そして双子であるから、例え満月であろうと新月であろうと互いの力を分け与える事ができる。
「それで、何故今日に限って先視などしている?」
「ん、なんか源ジィんトコの跡取りが家出したからちょっと視てくれないかって」
「……またか」
源ジィとは、蒼雅領の領主であり、この北方領土を治めている蒼雅源重郎の愛称だ。
総領主である源重郎の跡取り……孫である蒼雅黒斗は放浪癖持ちでよく旅と称して家出している。
跡取りの身でありながらよく危険な事や場所に挑むので、源重郎も気が気ではないのだろう。
「よりにもよって満月に頼むまれるな」
「だから仕方ないだろ。相手は総領主だし、源ジイもう年だし」
年寄りは労わらないと、と李紅は言った。
李紅は歴代の陰の中でも最も温厚だと言う。
陰……つまり闇を扱う者というのは何かしら根暗や陰湿な者が多かったらしい。
まあ、各言う俺も歴代の陽の中で最も気性が荒いらしいが。
「それで、残りどの程度だ?」
「うーん。気配は察知したから多分もうすぐ……あっ、いた!」
護摩壇の火が一層爆ぜ、火の向こうに何かが見える。
俺ではあまりよく見えないが、李紅の瞳には鮮明に写っている事だろう。
「何処だ?」
「翠蓮領で船に乗ってるみたいだね。外来船じゃないからすぐ戻ってくると思う」
前に外来船に乗られた時は苦労した。
その時は李紅が外の奴に交信して事なきを得たが、あのまま放っておいたらきっと戻って来なかっただろう。
「なら、また気を起こさない内に連れ帰るのが懸命だな」
「そうだね。と言うわけで行ってらっしゃーい」
何の悪びれも無く、座ったまま手を振っている李紅。
普段であれば何故俺が、等と反論するところだが今日は仕方ない。
今日は満月。李紅は最も弱っている時期だ。
やれやれとため息を付き、俺は部屋から出た。
黒斗を連れ帰るついでに狩りをしてもいいかもしれない、などと考える俺だった。